『悪と仮面のルール』 中村文則 【あらすじ・感想】
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あらすじ
邪の家系を断ちきり、少女を守るために。少年は父の殺害を決意する。大人になった彼は、顔を変え、他人の身分を手に入れて、再び動き出す。すべては彼女の幸せだけを願って。同じ頃街ではテロ組織による連続殺人事件が発生していた。そして彼の前に過去の事件を追う刑事が現れる。本質的な悪、その連鎖とは。日本人初「デイヴィッド・グディス賞」受賞。 — 本書より引用
感想
人間が持つ「悪意」をテーマにした作品
続けて中村文則さんの作品を読んだ。
本作は殺人の話、そして究極の悪についての話である。
著書はこの作品の前、以降も人が意識的に抱く「悪意」というものをひとつのテーマとして描き続けている。
あらすじ 東京を仕事場にする天才スリ師。ある日、彼は「最悪」の男と再会する。男の名は木崎――かつて仕事をともにした闇社会に生きる男。木崎は彼にこう囁いた。 「これから三つの仕事をこなせ。失敗すれば、お前を殺す。逃げれば、あの女と子供を殺す」 運命とはなにか、他人の人生を支配するとはどうい
あらすじ 対をなし存在する「2つの集団」。ひとつは「沢渡(さわたり)」という男が教祖として君臨し、都内のマンション一棟に潜むカルト宗教であり、そこには多くの若い男女が集っている。その宗教団体は公安や警察に「教団X」と呼ばれマークされている。もうひとつは、自称アマチュア思索家「松尾正太郎」を教祖とする
意識的に同種を殺す「人」という種について
この地球上において、共食いの現象は広く観察されているが、人間ほどに同種を殺す生物はいないようだ。
この世界では、罪を許すことの出来る存在は、神しかいないとされていますから。人間を遥かに超越した神だけが、それをゆるすことができる — 本書より引用
人間が神を求め宗教を生み出したのは、同種を殺しあう罪の意識に救いを求めてのことだったのかもしれない。
自分は、人を殺したことはない。
しかし、本書を読むと自分は同種を殺す人間という種なのだと強く自覚させられる。
なぜ、人を殺してはいけないのか?
ときに報じられるこの問いは、
自分たちは地球上でもっとも同種を殺す希少種である、そのことを強く自覚させることで答えを感じることができるのではないかと思う。
子どものころに大人たちから言われた「人は人を殺してはならない」という言葉が、本作を通じてはじめてストンと腹の底におさまったように感じている。
参考文献にあった書籍を読んでみた
本書の参考文献にあったものを2作ほど読んでみた。
経済社会がもたらした悪とも言える「ヤクザ」と「軍事ビジネス」を描いた作品であり、とても興味深い内容だった。
ヤクザマネー (講談社) あらすじと感想。 2007年11月11日にNHKで放送された「ヤクザマネー~社会を蝕(むしば)む闇の資金~」の取材班による取材記録。政府が進めた金融規制緩和により、投資マネーが膨れ上がり、新規上場を目指すベンチャー企業がいくつも登場する。そこには大量の資金を供給するヤク
アメリカの巨大軍需産業 (広瀬隆) あらすじと感想。 戦争、紛争、そしてテロといった武器を用いた争いは止むことなく世界各地で行われている。しかし、そこで使われる銃や兵器は誰が作り、持ち込んだものなのか。 アメリカの30兆円にものぼる国防費を背景に、軍需産業は国家と固く結びつきマーケットを世界へと広
映像化について
2014年に監督:松本准平、主演:柳楽優弥で『最後の命』が映画公開されたが、本作品も監督:中村哲平、主演:玉木宏で映画化されるとのこと。(2018年公開予定)
玉木宏、悪に染まる…「悪と仮面のルール」映画化 | cinemacafe.net
日本国内のみならず、アメリカをはじめとした海外でも注目を集める日本人作家・中村文則の傑作「悪と仮面のルール」が…
初期作品に比べるといくらかエンタメ要素も加わるようになったとはいえ、文学色の強い小説が映画原作として選ばれるのは喜ばしいことだと思う。
著者について
中村 文則(なかむら・ふみのり)1977年愛知県生まれ。福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。小説家。2002年、『銃』で新潮新 人賞を受賞しデビュー。2004年、『遮光』で野間文芸新人賞、2005年、『土の中の子供』で芥川賞、2010年、『掏摸』で大江健三郎賞を受賞した。 その他の著書に『悪意の手記』『最後の命』『何もかも憂鬱な夜に』『世界の果て』がある。 — 本書より引用