『特捜部Q 檻の中の女』~デンマーク発のミステリー 【あらすじ・感想】
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あらすじ
捜査への情熱をすっかり失っていたコペンハーゲン警察のはみ出し刑事カール・マークは新設部署の統率を命じられた。とはいってもオフィスは窓もない地下室、部下はシリア系の変人アサドの一人だけだったが。未解決の重大事件を専門に扱う「特捜部Q」は、こうして誕生した。まずは自殺と片付けられていた女性議員失踪事件の再調査に着手したが、次々と驚きの新事実が明らかに! デンマーク発の警察小説シリーズ第一弾!。 — 本書より引用
読書感想
読みどころ
- 北欧デンマークを舞台にした警察ミステリ小説。シリーズもの第一作目。
- クセのある有能刑事と謎多きシリア人アシスタントのコンビが魅せる。
- 埋もれていた未解決事件の謎解きと、渦中の被害者の描写、2つの物語が重なる瞬間、震える。
ミステリ小説でヨーロッパを旅する
もともとミステリ作品(とりわけ刑事・警察もの)を好んで読むのだが、近頃はヨーロッパの国々で出版されたものを巡っている。
フランス人作家「ピエールルメートル」の作品
『その女アレックス』ピエール・ルメートル【読書感想・あらすじ】
その女アレックス(ピエールルメートル)のあらすじと感想。おまえが死ぬのを見たい ――男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが……しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し
ドイツ人作家「ライナー・レフラー」の作品
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イギリス人作家の大御所「アガサ・クリスティ」の作品
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ささやかではあるが、小説でさまざまな国々を巡る試みは大変楽しいもので、しばらくは続けていくつもりだった。この作品を読むまでは。
というのも、本作品がシリーズ物なのにとんでもなくおもしろいため、しばらくは「特捜部Q」から離れられそうもないからだ。
デンマーク発のミステリ作品
本作はデンマーク人の著者、「ユッシ・エーズラ・オールスン」のデビュー作であり、タイトルである「特捜部Qシリーズ」の第一作目。
大変人気を博したシリーズのようで、いくつかは後述するが映画にもなっている。 物語はデンマークの首都、コペンハーゲンの町を舞台に展開する。
ある日、コペンハーゲン警察署に過去の未解決事件を専門に扱う部署を作る話がのぼり、 本作の主人公である「カール・マーク」がその責務を担うことになる。
新設部署の実体は?
そして向き合うことになる未解決事件とは?
クセのある刑事と謎のアシスタント
シャーロック・ホームズのシリーズ以後、謎解きは天才かつ変人の主人公と振り回されるアシスタントのコンビはよくある設定だ。
そしてさまざまなミステリを読んでみると、結局のところ、この組み合わせが秀逸であると良くわかる。(一匹狼ものも大好物だ)
このシリーズも主人公はとてもクセが強く苦悩を抱えた男「カール・マーク」、アシスタントは謎多きシリア人「アサド」という奇妙なコンビによる。
カールという男は過去に部下一人が死亡、ほか一人が脊髄に損傷を負い、自分だけが助かるという事件を傷として抱えている。
また、妻は愛人と暮らしていながら散々カールを振り回し、息子はなつかず、とにかく悩ましき男だ。 そしてけっこうスケベだ。
一方、アサドはシリア出身であること以外謎に包まれている。ひどく優秀ではあるものの、カールとはひどくぎこちない関係で始まるのだが、徐々にカールを力強く支える存在となっていく。
そして少しだけ素性も明かされるのだが肝心なところまではわからず。おそらくシリーズのどこかで明かされるのか楽しみだ。
『その女アレックス』を彷彿させる監禁事件
そして彼らが所属する新設部署「特捜部Q」。最初に挑む事件は、本作品のサブタイトル「檻の中の女」がその事件内容を表している。表しているのだが、そこにたどり着くまで多くのページを堪能しつつもめくっていかねばならない。
ドイツへの旅客船上で行方不明となった若き女性国会議員「ミレーデ・ルンゴー」の事件は、手掛かりが何も挙がらず、海へ投身自殺をしたのではないかという推測を残し未解決のままとなっていた。
ちなみにこの事件は2002年、そして「特捜部Q」の設立は2007年。
そしてその実はピエール・ルメートルの『その女アレックス』を超える非情な監禁事件と言えるであろう。
『その女アレックス』ピエール・ルメートル【読書感想・あらすじ】
その女アレックス(ピエールルメートル)のあらすじと感想。おまえが死ぬのを見たい ――男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した彼女は、死を目前に脱出を図るが……しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレックスの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆転を繰り返し
本作では監禁事件それ自体がとにかくえげつない。犯人の動機、監禁中の扱い、年月をかけた監禁期間、その期間の理由、思い出しただけでも身の毛がよだつ。
物語の構成に特徴がある。
ミレーデの話しは2002年、カールたちは2007年現在が始まりで交互に展開していく。
そして、ミレーデの方はカールたちの物語より時間の進みが早い。
結果として2つの物語は2007年現在で足並みを揃えることになる。この過程は大変スリルに満ちており、その2つが揃う瞬間は震える。
映像作品について
「檻の中の女」はアマゾンプライム会員であれば無料で見ることができる。
その他もいくつか映画化されており、中でも第三作にあたる「Pからのメッセージ」は原作が賞を受賞している。
まずは順番に原作を読み進め、映画も見てみたい。そして震えたい。
著者・訳者について
ユッシ・エーズラ・オールスン
1950年、コペンハーゲン生まれ。10代後半から薬学や映画製作などを学び、出版業界で働く。1985年からはコミックやコメディの研究書を執筆。その後フィクションに転じ、2007年に初のミステリ小説である本書がベストセラーとなり、デンマークを代表する作家となった。2009年刊行のシリーズ第三作『特捜部Q―Pからのメッセージ』(早川書房)で、北欧ミステリの最高峰である「ガラスの鍵」賞を受賞している。 — 本書より引用
吉田奈保子(よしだ・なほこ)
1974年生、立教大学文学部ドイツ文学科卒、ドイツ文学翻訳家 — 本書より引用