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『銃』 中村文則 【あらすじ・感想】

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あらすじ

雨が降りしきる河原で大学生の西川が出会った動かないくなっていた男、そのの傍らに落ちていた黒い物体。圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼はやがて、「私はいつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになるのだが……。TVで流れる事件のニュース、突然の刑事の訪問――次第に追いつめられて行く中、西川が下した決断とは? 新潮新人賞を受賞した衝撃のデビュー作! 単行本未収録小説「火」を併録。 — 本書より引用

読書感想

読みどころ

  • 偶然拾った「銃」と対話し共に過ごしいつしか飲み込まれていく男を描いた文学作品。
  • 「ディティールこそすべて」と言わんばかりの淡々とした描写の連続がわたしのハートを鷲掴み。
  • デビュー作でこの作品を文学界に放り込んできた著者はやっぱすごい。

何度でも言う、中村文則氏の初期作品が大好きだ

他の感想記事でも述べているが、中村作品の初期三作品というのは本当にインパクトがあり、読んだ当時の衝撃を今でも思い出すことができる。 そして本作「銃」はデビュー作にあたる。

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上に挙げた二作品も素晴らしいのだが、本作品もデビュー作ながらとても好きな作品である。

なにがそんなに良いのか?

著者もあとがきで述べているが、こういった文学色の濃い作品自体が現代作家の中で書く人が少ない。希少性という理由もある。(だってエンタメ作品ばっかだし)

ただやはり、もっともハートを鷲掴みにされるポイントは一人称一人ひとり語りによる、自己との対話、無意識下に潜む己を意識下に引きずり出す迫力ある描写、というような部分なのだけど果たして伝わるだろうか。

「銃」と出会い、「銃」に魅せられ、「銃」に飲み込まれていく

どんな話かと言えばこれに尽きる。 大学生の西川という青年が偶然「銃」を拾い自宅に持ち帰る。 彼はその銃の外観に魅せられ大切に保管する。

わざわざしまうカバン、中敷きにする布、磨くための布ひとつひとつにこだわり宝物のように扱う。

そしていつしか心の中で銃と対話を交わすようになり、さらにはときに嫉妬するなど、完全にひとりの人格を持つ存在と言えるほどまでに銃の存在感は彼の中で膨らんでいく。

銃の外観に魅せられた彼は、銃の存在意義、銃の持つ意味的な部分にまでのめり込んでいく。

行きつくとこまで行く男、文学作品の魅力

銃の存在理由、それは生きているものの生命を瞬間的に奪うことである。 銃にのめり込み、そして飲み込まれてしまった彼が行きつく先は1つだ。

この一連の自問自答や意識の変遷が読み手を魅了してやまない文章で描写されるのだから、これはたまらん。

結局行きつくところまで行ってしまうのだけれど、そんなストーリー展開とかそういうのは正直どうでもよい。

ただただ何度も何度もなぞりたくなる文章がある。そしてそのような文章によって表現される芸術作品すなわち文学、と感じる作品が同じ時代に生まれていることが嬉しかったりする。

感じ方は人それぞれだけれども、私にとって中村文則氏の初期三作というのはこういった思い入れが強く、繰り返し繰り返し読んでしまうのであった。

余談

2017/06/22に「教団X」が文庫化された。この作品は多くのメディアに登場し紹介されているが、初期作品と構成は大きく異なり物語があり複雑性も増した長編作である。

いきなり読むにはしんどいが、初期の作品から順番にたどって読んでみると、読みごたえがあり楽しめる作品であると思う。

著者について

中村文則(なかむら・ふみのり)
1977年愛知県生まれ。2002年、『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。04年『遮光』で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で芥川賞、10年『掏摸』で大江健三郎賞を受賞。他の著書に『悪意の手記』『最後の命』『何もかも憂鬱な夜に』『世界の果て』『悪意と仮面のルール』『王国』『迷宮』がある。
中村文則公式サイト
> https://www.nakamurafuminori.jp — 本書より引用

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