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『老人と海』 ヘミングウェイ 【あらすじ・感想】

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あらすじ

キューバの老漁夫サンチャゴは、長い不漁にもめげず、小舟に乗り、たった一人で出漁する。残りわずかな餌に想像を絶する巨大なカジキマグロがかかった。四日にわたる死闘ののち老人は勝ったが、帰途サメに襲われ、舟にくくりつけた獲物はみるみる食いちぎられてゆく……。徹底した外面描写を用い、大漁を相手に雄々しく闘う老人の姿を通して自然の厳粛さと人間の勇気を謳う名作。 — 本書より引用

読書感想

読みどころ

  • アメリカを代表する作家の一人ヘミングウェイが最期に残した名作。
  • 半世紀以上前の作品とは感じさせない瑞々しさをたたえておりまた長く読まれる名作としての力強さもある。。
  • 老人による一度の漁で人生や自然界の縮図を感じさせてしまう文章に圧倒される。

Don’t think, just read it.

作品がすべてでありこれ以上でも以下でもない。

いまさら何かを述べる必要なんてない。 そんな気持ちになった作品だったよ、ということで最小限のメモを。 老人サンチャゴは小舟を押して海に出る。

八十五日の不漁という不運を取り返すべく大物を目指す。 キューバの明るい日差しの下でとうとう彼は大物に巡り会う。

なかなかにしぶとく鈎と縄で繋がった老人と大物は幾日も海をさまよう。 長時間の格闘の末ついに勝負は決する。

あとは港に帰るだけだが何匹ものサメが群がりその行く手を阻む。 港に帰り着いたとき、大物はすっかり無残な姿となり老人は精魂尽き果てるほどにくたびれてしまった。

漁に出ている間、老人は幾度も自分自身や魚と対話し過去の記憶に思いを巡らせる。 大物と格闘しているとき、かつてまる一日かけてガタイの良い黒人と腕ずもうの勝負をしたこと。

傷つき疲れ切ったとき、いつもかたわらでやさしく世話をしてくれる少年のこと。 失意と希望の間で揺れながら、一時は大物を仕留めた勝利に歓喜を抱くものの、生死のやりとりにおける罪についての思索に囚われたりもする。

手にしたものをものの数時間後には失ってしまう人生の儚さも味わう。 儚い勝利と敗北が横たわる一連の漁は、まるで人の一生を描いているかのようだ。

また自然界は豊かに、そして残酷に回っているのだとあらためて認識する。 人生は勝敗のみで決するものではない終わり方も胸を打つ。

巻末の訳者による解説に興味深い話があったのでメモを。

時間の原理のうえになりたったヨーロッパ、空間の原理のうえになりたったアメリカ。 — 本書より引用

短編ですと、人生の一断片を未解決のままに冷たく描き出すということでいいでしょうが、長編では、なんらかの思想がその背景にないと、いたずらに人物や事件の通俗的なスペクタルになってしまって、内容的にも、形式的にも、緊張した構成の美は得られません。たとえ作品のなかに露に出てこなくても、やはり作者の倫理感が長編の展開を押しすすめていくものだからです。 — 本書より引用

著者について

アーネスト・ヘミングウェイ
Ernest Hemingway
(1899-1961)
シカゴ近郊生れ。‘18年第1次大戦に赤十字要員として従軍、負傷する。‘21年より’28までパリに住み、『われらの時代』『日はまた昇る』『男だけの世界』などを刊行。その後『武器よさらば』、短編「キリマンジャロの雪」などを発表。スペイン内戦、第2次大戦にも従軍記者として参加。‘52年ピューリッツァ賞を受賞。‘61年、猟銃で自裁。 — 本書より引用

訳者について

福田恆存
Fukuda Tsuneari
(1912-1994)
東京生れ。東大英文科卒。評論・翻訳・劇作・演出の各分野で精力的に活躍。主著には『人間・この劇的なるもの』等多数。芸術院会員。 — 本書より引用

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