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『家守綺譚』 梨木香歩 【あらすじ・感想】

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あらすじ

庭・池・電燈付二階屋。汽車駅・銭湯近接。四季折々、草・花・鳥・獣・仔竜・小鬼・河童・人魚・竹精・桜鬼・聖母・亡友等々々出没数多……本書は、百年まえ、天地自然の「気」たちと、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる新米精神労働者の「私」=綿貫征四郎と、庭つき池つき電燈つき二階屋との、のびやかな交歓の記録である。――綿貫征四郎の随筆「烏歛苺記」を巻末に収録。 — 本書より引用

読書感想

読みどころ

  • 古い二階家の家守を託された駆け出しの物書き「綿貫征四郎」が送る、奇妙奇天烈な日常劇。
  • 毎日のように「もののけ」の類と邂逅する非日常的日常が、自然と受け入れられてしまう、何とも趣深い文章が特徴的。
  • 日本語で味わう「読む自然の美しさ」とも言うべき、植物の名を冠した28編からなる物語。

日常のすぐ隣にある非日常

目まぐるしい毎日の傍らに、確かに存在するものの、見過ごしてしまう世界がある。

ビルばかりの都会においても自然の姿はわずかながら残っている。肩の力を抜いて、少し気をつけて目を向け耳をすませば、「何もない」と思っていたモノたちの存在を、もしかすると感じることができるのかもしれない。

売れない物書き「綿貫征四郎」は、学生時代に亡くなった旧友の父より、実家である古い二階屋の家守を頼まれる。先立つものがない彼は、渡りに舟とこの話に飛びつくのだが、そこには不可思議な日々が待っていた。

床の間の掛け軸から亡友の「高堂」がしばしば現れ、狸や河童が人の姿で語りかけてくる次第。 28の植物の名を冠した、綿貫征四郎という家守による、美しく幻想的な綺譚集である。

家守綺譚の目次

※Wikipediaより引用。

日本語で楽しむ読む自然の美しさ

これまで読んできた著者の作品とはだいぶ趣が異なる作品だった。

『ピスタチオ』 梨木香歩 【読書感想・あらすじ】

ピスタチオ (ちくま文庫) 梨木香歩のあらすじと感想。小説「ピスタチオ」とは。東京の武蔵野(吉祥寺、井之頭公園と思われる)で老犬と二人暮らしを送る女性「棚」が目に見えない言葉にできない多くを瑞々しく感じ取る様に魅せられる。棚が取材の仕事で訪れたアフリカ・ウガンダでは予想もしない生命に溢れた

最初に読んだ『ピスタチオ』や『西の魔女が死んだ』は、遠い外国の香り漂う作品だったように思う。

対して本作『家守綺譚』というと、「日本語で味わう」「読んで楽しむ」「日本の自然」といった具合だろうか。

28の各話には植物の名前が冠してあり、それぞれの草花が、さりげなく物語に彩りを与えている。

登場するモノの多くは、いわゆる「もののけ」や「怪異」、といった類であるが、これがきわめて自然に描かれているところがおもしろい。

綿貫征四郎が二階家での暮らしをスタートし、床の間の掛け軸から、亡友「高堂」がボートを漕いで登場するくだりはこうである。

――どうした高堂。
私は思わず声をかけた。
――逝ってしまったのではなかったのか。
――なに、雨に紛れて漕いできたのだ。
高堂はこともなげに云う。 — 本書より引用

「なぜ?」や「どうやって?」など野暮なやりとりなどはなく、高堂が亡くなってからの空白など初めから無かったかのように、彼らは極めて自然に会話を続ける。

――会いに来てくれたんだな。
――そうだ、会いに来たのだ。しかし今日は時間があまりない。
高堂はボートの上から話し続ける。
――サルスベリのやつが、おまえに懸想している。
――……ふむ。 — 本書より引用

「庭のサルスベリの木がオマエに恋してるってよ」と言われ、綿貫の反応は「……ふむ」である。

何かしらツッコむところではなかろうか?と思うが、万事がこのような具合で物語は進んでゆく。

綿貫と高堂のキャラクターが、この非日常的な世界観を、違和感のない日常に帰しているのかもしれない。そしてここに、犬のゴロー、隣のおかみさん、山寺の和尚たちが色を添える。

本作は四季をぐるりとひと巡りする構成になっている。そして、それぞれの土地にそれぞれの良さがあるように、この国にも四季折々の美しい自然があることを、見事に綴り上げている。

稀に見る素晴らしい作品だった。

写真で見る家守綺譚

この作品のことを調べていたら、とても素敵なサイトを見つけた。作品に登場する植物たちを多数の画像で見ることができるのだ。

家守綺譚の植物アルバム

梨木香歩著『家守綺譚』の物語の世界をより深く味わうために「家守綺譚の植物アルバム」を作成しました。

植物それぞれの特徴的な外見のほか、物語上で描写されるポイントもしっかり掲載されているのが素晴らしい。

読むのに合わせて鑑賞すると、よりイメージが湧いて良いかもしれない。

著者について

梨木香歩 Nashiki Kaho
1959年(昭和34)年生れ。小説に『西の魔女が死んだ』『丹生都比売(におつひめ)』『エンジェル エンジェル エンジェル』『裏庭』『からくりからくさ』『りかさん』『家守綺譚』『村田エフェンディ帯土録』『沼地のある森を抜けて』『ピスタチオ』『僕は、そして僕たちはどう生きるか』『雪と珊瑚と』『冬虫夏草』『海うそ』『岸辺のヤービ』など、またエッセイに『春になったら苺を摘みに』『ぐるりのこと』『渡りの足跡』『不思議な羅針盤』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』などがある。 — 本書より引用

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